床と大地の余地

2022 COMPLETE

 分譲地に建つ50代夫婦のための住宅である。
 付近一帯はよくある郊外の住宅地であるが、取柄は平安時代の小山遺跡として指定されている地域である。また付近には古墳も点在している。
設計スタート時は造成中だったこともあり、地面とコンクリートだけの風景が広がっていた。
 この地で建築をつくること、さらに未来を想像したときに、遺跡のように人工物が自然へと化すその時間の中に住人の身をおくことができないかと考えた。施主が新たな住処で過去や未来を想像したり、地面やそこに生える草、吹き込む風や時間の経過を感じられる「地面に開き、大地とつながる空間」を考えた。
 そこで造成された地面に5つの独立したべた基礎を配置し、床下に地面と環境を残した。床と基礎の立ち上がりによってトンネル状になった床下空間は涼やかな風が通り、草も生える。自然光や人工照明の光も床下に届く。光の届くところ、雨が降りこむところ、影になるところ、人の手が届くところなど、床下空間でも微環境が生まれた。雑草は可塑性が高いため、床下で自由に育てることで、生態系も適所に育まれている。
 5つの独立べた基礎のうち2つは内部に高低差のある空間を生み出す。さらに一般的な分譲地では外部に開きづらい造成計画になっているため、地面へ向かう窓によって、内( 地面) に開くというスタンスをとった。大きな窓はあるものの低重心な窓配置により、内向きな窓とし、洞窟のような内部空間となっている。
 これは地方の郊外における分譲地での立ち姿の1つの解であるかもしれない。
 植物と小動物が共存し、同じレベルに土間の内部空間もつくりだしたことで人間もその関係に参加できる。
 住むための土地を選んでいた条件は、新たな価値観へ転換し、過ぎ行く時間を楽しんでもらえている。
(江上史恭)

DATA    
所在地 熊本県  
用途 住宅  
構造 木造  
規模 地上2階  
延床面積 78.98m2  
     
Photo Yousuke Harigane
FUMI EGAMI ARCHITECTs